2012年5月4日金曜日

士郎が騎士王ガールズを召喚 - 【勝利すべきは】士郎が騎士王ガールズを召喚【我にあり】


 獣達の勢いが弱くなってきたのを感じ取り、アーチャーとイスカンダルは勝負を決めるならば今しかないと直感的に悟った。故に行動は早かった。アーチャーが詠唱を始めると同時にイスカンダルは己が宝具を展開し、この戦場を戦い易いものへ変えようとする。
 それだけではない。彼が使おうとしている宝具は獣達を隔離出来るのだ。それは少々余力が少なくなってきた凛と時臣を休ませるための時間を得るためでもある。僅かでも体力を回復出来る時間を作るべく、イスカンダルは不敵な表情を浮かべた。

「さて、そろそろ狭い場所での戦は飽きた。皆の者、広い野を駆けるとしようではないかっ!」

 その言葉がキッカケのように周囲の景色が変わっていく。全てが何かに塗りつぶされるように。それは固有結界と呼ばれる大魔術。魔法にもっとも近いと言われるものだった。それにより鉄橋は消え、周囲には見渡す限りの平原が広がるのみ。いや、それだけではない。そこには大勢の兵士達がいたのだ。
 彼らは全てイスカンダルと共に時代を駆け抜けた臣下達。一人一人が英霊級という凄まじい者達だ。それこそイスカンダルの宝具の一つ"王の軍勢"だ。本来魔術師でもない彼に固有結界は使えない。しかし、彼だけでなく全ての者達が同じ光景を心に焼き付けたが故に生まれた宝具がこれだった。

 そう、これぞ征服王と呼ばれたイスカンダルに許された絆の力。力による蹂躙ではなく相手の心までもその強烈なカリスマ性で征服した彼に相応しい光景。従わせるのではなく従える。その強烈な在り様で人の心を魅了するからこそ彼はこう呼ばれたのだ。征服王、と。

「あの戦いで知っていたが味方として見るとまた印象が違うものだな」

 時臣は眼前に広がる光景に思わず感慨深げな声を漏らす。あの第四次聖杯戦� �で知ったイスカンダルの宝具である王の軍勢。その時は敵だったために厄介としか思えなかったが、今はそれが自分を守る力となっている。その頼もしさに彼の失いかけていた余裕が再び戻り始めた。

 大勢の兵士を背にするイスカンダルの威容にさしもの獣達も後ずさる。すると、それを合図にしたようにアーチャーが詠唱を終えその力を解き放った。それを受けまた平原が姿を変えていく。何も無かったはずの広大な大地には、幾多もの聖剣や魔剣などの武器が突き刺さっていたのだ。
 それがアーチャーの宝具"無限の剣製"。これもイスカンダルの宝具と同じ固有結界。しかし、これは本来ならば戦況を一変させる程の力は持たないもの。だが、今回に限れば恐ろしい程の効果を発揮する。それに真っ先に気付いたのは彼のマスターだ。

「成程ね。しかしアーチャーのくせに宝具が固有結界とはやってくれるじゃないの」

 この荒野に突き刺さる武器はどれもが宝具と扱われてもおかしくない物ばかり。確かに投影によって作られた贋作だろうが、それでもその出来映えは凛の目から見れば遜色ないように思えたのだ。そう感じて凛は呆れるようにため息を吐いてアーチャーを見た。
 するとその視線が見事に彼とかち合う。一瞬面食らう二人だが、それもすぐに立て直し互いに不敵な笑みを浮かべるのは大したものだろう。アーチャーは凛が自身の狙いを察したと理解し、凛もまたアーチャーがそれを察した事を理解したのだ。

 アーチャーは凛の理解力の高さに内心微笑みながら、表情は不敵な笑みのままイスカンダルへと視線を向ける。イスカンダルとその臣下達は突然の事に驚いてはいた。だが、誰もが興味津々と言った感じで周囲を見渡していた。その豪胆ぶりが実にらしく思え、アーチャーは自身の予想が間違っていなかったと実感する。

「どうだろう征服王、気に入ってもらえたかな? ただ駆けるだけではつまらないと思ったので用意した。まぁ贋作ではあるが出来は保障するので君の周囲の 者達へこの武器達を使ってもらえないだろうか」

 そう、彼の宝具は刀剣の類に限り真作に迫る程の贋作を展開している。それを一騎当千の英雄と同等であるイスカンダルの臣下達が使えばその結果はいうまでもない。それに気付いてイスカンダルは興味深そうに笑みを浮かべた。

「ふむ、これは……中々面白い趣向だな。アーチャー、やはりお主も余と共に」

「その誘いは遠慮すると言ったはずだ。それよりも今は」

 イスカンダルの言葉を遮り、アーチャーはそうどこか楽しそうに返す。それにイスカンダルは苦笑すると一度だけ頷いた。凛と時臣は既に二人の横にいた。宝具使用による魔力を供給しやや苦しそうではあるものの、その表情は凛々しいままに。
 それにアーチャーとイスカンダルは微かに笑みを浮かべる。二人の態度から休む気はないという無言の返事を聞いたのだろう。どこかでそうでなくてはと思い、ならばとイスカンダルは周囲へ告げた。

―――それでこそ我がマスターとその娘よ。では遅れずについて参れ。皆の者、我に続けぇぇぇぇ!!

 イスカンダルの雄叫びと共にそれに呼応して走り出すアーチャー達と大勢の兵士達。世界征服を望み大地を駆け抜けた征服王。その雄姿が甦った瞬間だった。その雄叫びを聞いたのか、それと時を同じくして桜達も勝負に出る事にした。
 揃って悟ったのだ。ここで動かねばいけないと。なので、まずはフランが動いた。未だに散開する獣達を一気に殲滅するには自分の宝具が向いていると思ったのだ。それとこの状況に飽きてきたのもその裏側にはある。

「さて、精々派手に行くさね!」

 その宣言と共に出現する一隻の船。それは彼女と共に海原を駆けた黄金の鹿号だ。更にその周囲に無数の小船が出現する。それこそ彼女の宝具"黄金鹿と嵐の夜"だ。その圧倒的火力が獣達を攻撃していく。かの無敵艦隊を打ち破った力が数を頼みにする獣達を沈めるべく放たれた。
 混乱する獣達は分散していてはその砲撃を止める事は出来ないと判断し態勢を整えようと動き出す。唯一砲撃の甘い場所である学園の入り口である門へと一斉に退却を開始したのだ。黒い波がうねるように殺到する様をフランは不敵な笑みで見つめていた。

 フランの攻撃から逃れようとする獣達。その退路として選んだ道は実は既に断たれていた。そう、その上空にはペガサスに乗ったライダーがいたのだから。意図的に学園の前にある坂への道を開けているとフランの意図に気付いたライダーはそこに逃げてくる獣達を待ち伏せていたのだ。
 ライダーは眼下に広がる光景に呆れたような息を吐くと、慈しむように軽くペガサスの頭をなでる。最初こそ自分達の奥の手を封じるような行動を取った獣達も、やはり本質は本能しかない獣だったかと思ったのだ。

「さて、私達も行きましょうか」

 争いを好まないペガサスを少し申し訳なさそうに撫でながら静かに告げた声と同時にその姿が白い彗星へ変わる。ライダーの宝具"騎英の手綱"だ。その力を以ってライダーは坂を駆け下りていく。フランはそれに軽く笑みを浮かべると小さく文句を告げる。自分の取り分が無くなると。
 そのため、黄金の鹿号に桜と慎二を乗せてライダーの後を追う。かつて日の沈まぬ国と呼ばれたスペインの権威を失墜させた船団が行く。白い彗星となったペガサスを援護するように。海を駆けるフランと空を駆けるライダー。二人の騎乗兵は地を這う獣達を追い詰めるように攻め立てる。

 まるで今までの鬱憤を晴らすかのような攻撃。その苛烈さは確実に獣達を襲い、あるいは撃ち抜いてその数を減らしていく。その圧倒的な光景を眺めて桜と慎二は苦笑していた。最初からこうすれば良かったと告げる慎二に、桜が今だからこそ使ったはずと返す。その視線を動かし、冬木の街を襲う獣達の数が減ったように感じながら二人は頷き合う。

「これで終わりが見えてきましたね」

「だな。ま、僕が手を出したらこうな� �って最初から分かってたけどさ」

 未だ獣達が完全に消え去った訳ではない。それでも桜も慎二も勝利を確信していた。信頼する二人のサーヴァントが奥の手と言える宝具を使った以上その敗北はないと信じているからだ。そう思って二人は視線をある一点へ向けた。
 その先には無人の校舎がある。また平穏を取り戻しここへやってくる日を掴むためにも最後まで気を抜かないでおこう。そう考えた二人はそれぞれのサーヴァントを見つめて同じ言葉を呟いた。それは激しい戦いの最中では小さな声だったかもしれない。しかし込められた気持ちは強く大きなものだ。

「ライダー、頑張ってっ!」

「容赦するなよ、フランっ!」

「ライダー、片付けるよっ!」

「言われずとも分かっていますよ」

 そんな兄妹の声を聞いたフランは不敵な笑みを浮かべたままでライダーへ合図を出す。それは最後の総仕上げを告げるもの。その言葉にライダーも笑顔で返すとフランも満足そうに動き出す。その凄まじさは獣達からすればまさしく恐怖そのものだった。
 そんな二人の騎乗兵による獣達の駆逐が始まった頃、以前として衛宮邸の門前でイリヤ達は戦っていた。だが、既にそれも限界を迎え始めていた。弾丸が無くなったために舞弥が戦力としての役割を果たせなくなったのだ。それでも舞弥は気丈に通常の弾丸しか装填していないハンドガンで牽制を続けていた。イリヤと自分を守るように戦うバーサーカーのために。

「マイヤ、もういいよ。バーサーカーが下がれって言ってる」

「でしょうね。でも、駄目。獣達がかなり勢いを無くしてるここで押し返さないと」

 状況を冷静に判断した舞弥は手にしたハンドガンのマガジンを取り換えた。そちらの残弾も残りが心許なくなってきてはいるが、ここで自分が撤退すればイリヤへ危険が及ぶ可能性が高くなる。それを懸念� �舞弥は戦意を高めていた。通常の弾丸でも効果が完全にない訳ではない。それだけを支えに舞弥は銃を構える。
 その舞弥の言葉からイリヤは戦局を決する時が来たのだと察した。そしてここで自分達が好機をものにすれば、父親と母親を援護するだけではなく助ける事に繋がるかもしれないと考えて。それが表情を凛々しくする。そして彼女は視線をある相手へ動かした。

「やっちゃえ! バーサーカーっ!」

 バーサーカーはその声に小さく頷き、手にした斧剣を構える。白い少女の声援を受けた英雄は古の神話で謳われた風格を漂わせた。幾多の試練を乗り越えた勇者であるヘラクレス。その伝説が今甦る時が近付いた瞬間だった。
 それを感じ取った舞弥が息を呑み、獣達が怯む。彼らは目の前の相手が切り札を切ろうとしている事を感じ取ったのだ。そう、バーサーカーは狂戦士。だが、今の彼は完全に狂っている訳ではない。故に放てるのだ。彼がセイバーやアーチャーのクラスで召喚された際の攻撃―――宝具とも呼べる攻撃が。ヒュドラを倒した際の伝承通りの技が。

「受けてみろ。我が必殺の一撃を」

「えっ……?」

「バーサーカーが喋った?」

 疑問符を浮かべる二人の目の前で放たれたのは"射殺す百頭"と呼ばれる技。地鳴りを思わせるような雄叫びと共に振るわれる斧剣。それが見事な剣舞のように門前に居た全ての獣達を一瞬で全滅させた。
 その光景に思わず息を呑む舞弥。イリヤはその技に感嘆の声を上げ、満足そうに笑って頷いた。先程バーサーカーが喋った事を忘れているかのように。そんなイリヤの笑顔に応えるようにバーサーカーがもう一度雄叫びを上げる。


若い人たちは第2次世界大戦中にどのような役割を果たすた

 それを聞いて庭で戦っていた奉先がにやりと笑う。バーサーカーから自分への挑戦状と受け取ったのだろう。このまま負けていられないと思ったのだ。故に彼は切嗣とアイリを自分の後ろへ下がるよう視線で告げ、手にした戟を構える。それに獣達が危険を感じる間も与えず彼は雄叫びを上げると同時にそれを振るった。

 それは彼が万夫不当と称されるに相応しい攻撃。彼と最後まで共にいた軍師である陳宮その人が作ったとされる武器が戟。それは五つの武器の特性を併せ持つという恐ろしいものなのだ。それを
完全に活かして放つ攻撃こそ奉先の宝具。それを構え彼は吼えるのではなく低く唸った。

「失せろ雑魚共っ!」

 "軍神五兵"と名付けられたそれは狂っている際は矛と弓矢の形態しか使えない。だが、今の彼もバーサーカーと同じで完全に狂っている訳ではないためその本当の力を解放する事が出来る。その残る三つの形態も駆使し、獣達が動く暇さえ与えずに駆逐する奉先。
 人中の呂布と恐れられたその力は天下無双の名に恥じないもの。それを証明するように獣達を完膚なきまでに屠る。その凄さを眺め、切嗣とアイリは心から安堵しながら互いの顔を見つめた。その表情は笑顔だ。それが状況にそぐわないと思いつつも、どこか嬉しそうに二人は言葉を掛け合った。

「さすが君のサーヴァントだ。頼もしいね」

「ふふっ、でしょ? 切嗣が私をいじめたら奉先に懲らしめてもらうわ」

「それは怖い。勝てる気も逃げられる気もしないよ。でも、その必要はないよアイリ。僕は君を傷付ける事はしないと心から誓う」

「切嗣……」

 静かに切嗣へ寄り添うアイリ。それを優しく受け入れる切嗣だったが、何があってもいいように周囲へ気を配っている。まだ油断し切ってはいない証 拠だ。だがその表情はもう穏やかものへと変わっている。
 そんな仲睦まじい二人の声を聞きながら奉先はどこか懐かしむような表情を一瞬見せる。しかしその闘志は消えていない。獣達を殲滅し終えた瞬間、次は来ないのかとばかりに吼えたのだ。それはまさに一騎打ちでは負けなしと言われた豪傑の姿だった。

「やっぱすげぇな。勝っちまったよ」

「ああ、さすがに三国一の豪傑と呼ばれただけはある。多少の数などものともしないとは」

 楓のため息混じりの声に鐘は頷くように返して腕を組む。奉先との名を聞いて彼女がその正体を知らぬはずはない。そうやって二人が奉先の雄々しさに感心する横では、由紀香と葵が周囲が落ち着いたのを見て切嗣達のためにとお茶を用意していた。
 リズはもう自分の出番はないだろうと判断したのかそのお茶を既に飲み始めていて、それをセラに注意されている。その光景を見て由紀香と葵は小さく微笑む。そこに少しだけ平和を見たのだろう。

「いいですね、こういうの」

「そうね。いいわよね、こういうのって」

「ですからリーゼリット。それをまず奥様達へお持ちなさい。貴方はそれからです」

「でも私も少し働いた。だから飲む権利はある」

「だから! それは認めますが先に奥様達だと何度も」

「セラ、そんなに怒るとシワが増えるよ?」

「リーゼリットっ!」

 セラの怒号が衛宮邸に響き渡る。それに切嗣達だけでなく外にいたイリヤ達さえも笑うのだった……

 一方、人気のない場所で戦う者達もまた勝負を仕掛ける時� �感じ取っていた。その中の一つである洋館前ではレオ達が決着を着けようとしていたのだ。

「増援速度が落ちましたね」

「そのようです」

 レオの言葉にガウェインはそう返して剣を構える。隣にはラニを守護するようにランスロットが立っていた。書文もユリウスを護衛するように立っているが、その表情は未だに楽しそうだ。三者三様の雰囲気で獣達と対峙するサーヴァント達。
 このままでは獣達との戦いは延々と続くと、そう思っていた矢先の出来事。それにレオだけではなく誰もが勝機と感じ取っていた。ここで一気呵成に攻め立て押し込んでしまおうと。それだけではない。この機を逃せば好機はもうないと悟ったのだ。

「ガウェイン、頼みました」

「はっ!」

「ランスロット、お願いできますか?」

「お任せを!」

「アサシン、出番だぞ」

「ふむ、では少しばかり本気を出すか」

 それぞれのマスターが何を意味してそう言ったのか。それをサーヴァント達も理解しその体に気迫を漲らせていく。それを感じて獣達が一瞬だがたじろいた。レオはそれに頷き、その手を前方へ動かして告げる。

「ガウェイン!」

「転輪する勝利の剣っ!!」

 レオの声に� ��応しガウェインが解き放った言葉。それは彼の手にする聖剣の力を解放させる真名。あのエクスカリバーの姉妹剣であるガラティーン。それが激しい輝きを発して獣達を襲う。それはまさしく太陽の輝きだ。邪悪を許さぬとばかりに獣達を焼き尽くしていく光を見て、ランスロットは小さく笑みを見せる。
 こうして再び肩を並べて戦える事が嬉しく思えたのだ。そしてかつてとは違い、今の自分はまさしくガウェインと同じ立場として剣を振るっていると感じて。故に彼も手にした剣を構えて後に続く。

「無毀なる湖光っ!!」

 それはエクスカリバーに匹敵する神造兵装アロンダイトの真名解放。その効果は彼のステータスを全てワンランク上へと引き上げるもの。それを受けて放たれた一撃は太陽の輝きに異なる色を添えて獣達を根こそぎ消滅させていく。やがてそれが完全に彼らの前から獣達を一掃した。

 それを見届け安堵するレオとラニ。そんな互いのマスターの様子にガウェインとランスロットは無言で剣を合わせる。騎士同士の勝利を祝うそんな光景をユリウスは見つめ視線を書文へ向けた。きっと見せ場を� �くして不満に思っているだろうと思ったのだ。だが、その瞬間書文がユリウスに向かって動いた。

「抜け目がない奴らじゃ!」

 打ち出された拳が背後からユリウスを強襲しようとしていた生き残り全てを一撃で粉砕する。それが彼の宝具"无二打"だ。二の打ち要らずとの伝承から生まれたもので、実質は小次郎の宝具と同じく極限まで磨かれた武技。それが容赦なく生き残りの獣達を滅した。
 その技に言葉がないユリウスへ書文は豪快に笑みを見せる。そのどこか獰猛な笑みにユリウスは小さくため息を吐いて呟いた。抜け目のない奴はお前もだと。それに書文がにやりと口の端を上げて応えると、ユリウスも軽く笑みを浮かべて周囲を見渡した。

「……これで終わったか?」

「今のところは、でしょう。念のため警戒は解かない方がいいかもしれませんね」

 ユリウスの言葉にレオはそう返し、ラニへ視線を動かす。それに頷きを返してラニは家の中へと戻っていく。レオが自分へお茶の用意をして欲しいと思った事を察したのだ。そんな彼女に従う形でランスロットも後を追う。それを見送り、レオは小さく笑みを浮かべて周囲へティータイムにしようと告げる。
 それに残った三人は一瞬呆気に取られるも、すぐに愉快だとばかりに笑い出す。いつ襲撃があるにも関らずそんな事を平然と言いのけるレオの豪胆さに頼もしいものを感じながら、三人もその提案へ賛成するように屋敷の中へと歩き出すのだった。

 そして新都で戦う者達もまた変化した流れを感じ、それを引き寄せるべく動き出していた。言峰教会前で戦うアヴェンジャー達もそう。元々そこまで多くない獣達だったが、その勢いと数が変化した事に気付かない者達ではなかったのだ。

「む? これは……」

「勢いが……弱くなってきましたね」

 言峰の怪訝そうな呟きにバゼットがそう応じ、獣達を見つめる。最初あった押し潰されるような圧迫感。それが今は感じられないのだ。それがどうしてかをバゼット� ��考える前にカレンがさらりと告げた。今は考えるよりも動く方が先と言わんばかりに。

「ではそろそろ蹂躙される感覚を味わってもらいましょうか」

「優しいなぁ、俺達はよ。させるだけじゃなくされる側にもしてやるんだからな。ケケケッ!」

 カレンの言葉に続けとアヴェンジャーが走り出し、獣目掛けて両手に持った双剣を振るう。それが容赦なく獣の一匹を切り裂き沈黙させた。更にアヴェンジャーは返す刃でもう一匹の体を斬る。そこで獣達がアヴェンジャーへ一斉に襲い掛かる。隙ありと見たのだろう。
 しかし、それに欠片と驚く事もせずアヴェンジャーは不敵に笑った。そしてその直後、獣達が赤い布で一纏めにされる。カレンの放った聖骸布だ。それをそのまま自身の前へ引き寄せ、カレンは祈るように両手を組んで告げる。

「後は任せました」

 その声と同時に聖骸布が獣達を解放する。すると、それを合図に動く者達がいた。言峰とバゼットだ。二人は宙に放り出された獣達へその拳を、蹴りを目にも留まらぬ速度で撃ち込んでいく。獣達が地面へ落ちる頃には、それはもうただのモノに成り果てるぐらいの連撃を。
 それに目をやる事さえしないで二人は眼前の獣達を見つめた。そして確信する。何が原因かは知らないが相手の勢いは最早失せていると。補充の獣が来ないのだ。これなら蹴散らせる。そう考えて二人は弾かれるように飛び出した。

「一気にいきましょうっ!」

「心得た」

 獣達の前で体を屈め、捩じり込むように拳を打ち出すバゼット。それはボクシングで言うアッパーカットの形だ。しかし、その拳は魔力で強化されているため周囲の獣達を残らず叩き上げる。そこへ待ち構えていたのように言峰が跳び込み、宙に舞う獣達を蹴撃する。
 叩き上げられた直後に叩き落され、獣達は地面へ激突して山を作る。そして断末魔を上げる事さえ叶わないまま息絶えた。それを見届け安堵の息を吐くバゼットと終わったと感じて構えを解く言峰。カレンはそんな二人へ声を掛けようと歩き出す。そしてその足が獣達の死骸へ近付いた瞬間、その山から一匹の獣が飛び出した。他の獣を緩衝材にして生き残っていたのだ。

 それが油断し切っていたカレンへ迫る。迎撃も防御も間に合わない。そう思うもバゼット達は動いた。カレンは突然の事で気が動転しその場に立ち尽くすのみ。ただ、自身へ牙を剥く獣を見つめる事しか出来なかった。そんな彼女を咄嗟に庇って獣の牙を受ける者がいた。

「ぐうっ! やってくれんじゃねぇかよ、おい。ならこれはそのお返しだ!」

 肩口に咬み付く獣を睨みつけ、アヴェンジャーがそう吼えた時だ。その体に紋様のようなものが浮かび上がり獣が肩から口を放して苦しみだした。それこそ彼の宝具"偽り写し示す万象"だ。受けた傷を相手へ返すという中々使いどころの難しいものだが、今回はそんな事に構っていられないと即時発動したのだ。
 その呻く獣を言峰が発剄でとどめを刺し教会前に静寂が訪れる。咬まれた場所から血が流れる。その痛みにアヴェンジャーは表情を僅かに歪めながらもそれに構う事なく後ろを振り返った。

「バカ野郎っ! 何ぼさっとしてやがるっ! 死にたいのかよ、てめえは!」

「アヴェンジャー……」

 いつものアヴェンジャーではない。そう思ってカレンは何も言葉が出ない。それが何を意味しているのか。また何が彼をそうさせたのかを理解し、カレンは呆然とアヴェンジャーを見つめた。その様子でアヴェンジャーもまた自身の失態を悟り、それを誤魔化すために何気ない様子を装っておどけてみせた。

「なぁんてな。どうだ? 少しはときめいたかよ? 俺様の演技にな、ケケケ」

「ええ、私とした事が不覚に も」

「なっ……」

「と言ったらどうですか? 少しはときめきますか? 私の演技で」


クラスを取得する方法をあなたが認可されました

 そう言って不敵に笑うカレン。それにどこか面食らうもすぐにおかしくて仕方ないと笑い出すアヴェンジャー。その光景を眺めバゼットは優しい微笑みを浮かべていた。なんだかんだで信頼し合っている二人を見て嬉しく思えたのだ。しかし羨ましく思えるのも事実。なので彼女は視線を自分の夫へ向けようとして―――その肩に手を置かれた。

「綺礼?」

「一度中へ戻るぞ。休むにせよ、外はまだ冷えるのでな」

 そう告げて言峰はバゼットから手を放して歩き出した。その背を見つめバゼットはため息を吐く。その態度が娘が死ぬかもしれなかったにも関わらず少しとして変わっていないと感じて。何せ言峰は冷や汗一つ掻� �ていなかったのだ。
 そしてバゼットはその場で戦闘による汚れを軽く落とそうと手で体を払った。と、ある場所に触れた時ふと気付いた事があった。それは彼女の肩。先程言峰が触った場所だ。バゼットはまさかと思いつつもう一度手でそこを触れる。すると微かにではあるが湿っていたのだ。それが何を意味するかを悟り、バゼットは小さく笑うと視線を前へ戻した。

―――手に汗握ったのですね。貴方もやはり人の子ですか。

 喜ぶような笑みを浮かべバゼットは教会へと戻っていく言峰の後を追う。親子揃って素直ではないのだなと、そう強く思いながら……

 教会前での戦いが終わる十数分前、同じく新都で戦う三騎士達がいた。彼らがいたからこそ教会前の増援は途絶えたと言っても過言ではない。剣の英霊であるリオ。弓の英� �であるギルガメッシュ。槍の英霊であるクー・フーリンことランサー。
 その三人が全力で戦っているのだ。そうなれば勝てる存在などそうそういない。無論、獣達では言うまでもなく力不足。どれだけ数で攻めても無駄だった。特に物量で押す戦いを経験しているランサーと、それを主体として戦うギルガメッシュには。

 それでも厄介な事に変わりはない。津波のように押し寄せる獣達を切り払いリオはやや息を弾ませて周囲を見渡した。未だに数を減らす事なく存在する獣達。しかし、僅かではあるがその圧迫感が減った事を彼女は感じていた。

「キリがないね、このままじゃ」

「ああ、これじゃあ数を競うのも飽きてくるぜ」

「ふん、ならばキリを与えてやればよい。次で終わらせてくれるっ!」

 そう宣言するやギルガメッシュの手にした乖離剣が唸りを上げる。それが凄 まじい風を巻き起こしていく。それはさながら嵐。その光景にランサーが負けじと手にした魔槍へ力を込める。それを契機に槍へ魔力が走った。真紅の魔槍がよりその色を濃くしていく。
 両者のやろうとしている事を察し、リオも負けじと手にした聖剣を掲げた。ギルガメッシュが起こしている嵐に対抗するかのようにその刀身が風を生む。二つの激しい風が衝突しながら拮抗する。それが獣達の動きを完全に止めた。

 そんな事へ一切意識を向けず、三人はそれぞれの放とうとしている攻撃を見て笑みを浮かべた。その顔はお手並み拝見といったところだろうか。自慢の一撃をしかと見させてもらうと告げていた。そして一番手を務めるはやはりこの男だった。

「天地乖離す開闢の星っ!!」

 叩き付けられたのは、斬撃と呼ぶにはあまりにも凄まじい一撃。それだけで獣達の群れがほぼ全滅した事からもその威力が分かるというものだ。それにどこかしたり顔を見せるギルガメッシュへリオが感嘆の声� �上げ、ランサーさえやるじゃねぇかと褒める。
 しかし獣達はすかさず補充をかける。ならばと二番手に立候補したのは負けず嫌いのこの男。目の前で見せられた一撃に触発されたランサーが雷鳴の如き速度で駆け出し大地を蹴って空へ舞う。そして手にした魔槍を眼下に群がる獣達目掛けて投擲した。

「突き穿つ死翔の槍っ!!」

 対軍宝具としての真名解放。それによって再度獣達へ大打撃を与える事に成功する。どうだとばかりにギルガメッシュへ目をやるランサー。それを受けてギルガメッシュは微かに笑みを返した。思ったよりは凄かったのか、それとも勝ち誇っているからこその余裕か。どちらにせよそれにリオが奮起した。
 自分も負けていられない。その気持ちが聖剣へ宿ったように輝きを生み出していく。最早その輝きを良く知る二人はそれに小さく笑みを浮かべた。それこそは勝利を呼ぶ輝き。そう、勝利を約束された者の剣なのだから。

「約束された勝利の剣っ!!」

 ランサーの一撃から辛くも生き延びた獣達を逃す事無く全て飲み込んで黄金の輝きは消える。後に残ったのは激戦を示す大きな傷跡だけ。それを見届け、リオは笑顔を見せてランサーとギルガメッシュへ顔を向けた。

「やったねっ!」

「おう」

「うむ」

 その太陽の笑みに二人も無意識に笑顔を返すものの、すぐにランサーがギルガメッシュのそれに気付いて指摘。そこから軽い言い争いが始まり、そのやり取りを眺めてリオは一人苦笑するのだった� �…

「このっ!」

「宗一郎兄、大丈夫ですか!」

「ああ、これぐらい気にするまでもない。お前達は自分を守る事だけ考えていろ」

 大聖杯に一番近い場所で戦う柳洞寺の面々。その中で唯一魔術師でもない葛木が消耗し始めていた。彼はそもそも暗殺者。長丁場の戦いには向かなかったのだ。いくらキャスターの攻撃で獣達が数を減らしハサン達へある程度流れているとはいえ、その総数はかなりのものがある。
 小次郎もタマモと共に奮戦してはいるもの二人も大軍相手の攻撃法を持っている訳ではない。故にその仕留めそこなった獣は葛木へと押し寄せる。結果彼はその体力を少しずつではあったが削られていたのだ。

 それを見て一成と綾子がある決意と覚悟を決めた。それは自分の身は自分で守ろうというもの。二人のその気持ちを聞いたキャスターは迷う事無く葛木へしたのと同じ強化の魔術を二人へ施した。最愛の男性を助けるためならいかなる事も躊躇わない。それがキャスターなりの愛情だ。
 一成は葛木と兄である零観仕込みの武術で戦い、綾子は一成から許可をもらって境内の木の枝を折り木刀の代わりにしていた。今時の高校生らしからぬ武術の心得がキャスターの魔術という援護を受け窮地から自身を守る術として機能していたのだ。

「お姉様、こちらを一時的に隔離しますね。ちょ~っと不味いみたいなんで」

「っ! 分かったわ。宗一郎様をお願い」

「お任せを」

 タマモの提案の意味する事へ瞬時に気付いてキャスターは即決した。その返事を聞くと同時でタマモの使っていた鏡がその力を解放する。瞬く間に静かな闇に包まれる空間。それこそタマモの宝具"水天日光天照八野鎮石"だ。これも固有結界でその中ではタマモは魔術を際限なく使う事が出来るのだ。
 今回タマモはそれを本当に結界として使用した。獣達が葛木達へ襲いかかる事が出来ないようにするために。そう、タマモが宝具を展開した瞬間、小次郎がある技を放つためにその手にした刀を構えたのだ。

「さて、一網打尽とするか」

 繰り出されるは三つの斬撃。しかもそれがまったく同時に放たれた。これが小次郎の宝具と呼ぶべき秘技"燕返し"だ。突如として変化した周囲に戸惑う獣達へそれが見事に炸裂する。だがまだ全て仕留め切れていない。そこへ駄目押しにタマモが魔術を放った。

「往生際が悪いですねぇ」

 激しい炎が残った獣達を焼き尽くす。それを見届け小次郎が後ろへ視線を向けた。葛木は周囲の安全を確認し息を吐き、一成と綾子はその場に座り込んでいた。一先ず凌いだ。そう感じ� ��小次郎がタマモへ向き直り労をねぎらうように笑みを浮かべる。

「助かったぞタマモ。そなたがいてくれれば負ける気はせぬな」

「そんなお礼だなんて……私は当然の事をしたまでですから。でもでもぉ、小次郎様にそう言ってもらえると嬉しいなぁ」

「それで、この場所はどれ程持続出来るのだ?」

「正直私も結構疲れてますので精々後四五分ってとこですか。ま、その間はお姉様達に頑張ってもらいましょう」

「そうさな。あれだけおればまず負けぬだろうよ」

 そう言って笑みを浮かべ合う小次郎とタマモ。その頃、結界の外ではキャスターが一か八かの博打を打とうとしていた。勢いを無くしつつある獣達。だがその数自体が激減する事はない。それを何とかしなければ。そう考えたキャスターの� �。それがその博打の正体だ。
 しかしそのためにはこの疲弊した状態を何とかしたい。するとそのキャスターの気持ちを読んだのかナサリーが自身の宝具を解放する。それは攻撃と回復を同時に行うもの。彼女の夢とも言えるその名は"永久機関・少女帝国"と言う。

 解き放たれた少女の夢が獣達を包みダメージを与える一方でキャスター達の体の疲れなどを癒していく。その温かさに誰もが言葉を忘れる中、ナサリーが空を見上げた。

「ママ、これで大丈夫だよ。頑張ってね」

「ナサリー……ええっ!」

 愛しい娘の援護をもらい、キャスターは眼下に見えるハサンへ叫んだ。相手の心臓を作り出せと。その意図するものが分からぬものの、ハサンはそれが現状を打破すると信じて己の宝具を使用するために右腕を獣の一匹目掛けて動かした� ��
 しかし、それを邪魔するように他の獣達がハサンへ襲いかかる。本能的に感じ取ったのだろう。それが自分達の致命傷となると。だが、そんな獣達へ弾丸にも似た何かが降り注いだ。それはフィンの一撃と呼ばれるガンドの雨。ルヴィアの得意魔術だ。

「させませんことよ!」

「ルヴィア殿……」

「ハサン、私のサーヴァントとして見事その仕事を果たしてみせなさいっ!」

「心得ました。その信頼に必ずや応えてみせましょうぞ!」

 ルヴィアの援護を受けてハサンはその右腕にやがて心臓らしきものを作り出す。"妄想心音"と呼ばれるハサンの宝具だ。本来であればそれをそのまま握り潰すのだが、今回ハサンはそれを手にしたまま高々とキャスターへ見えるように掲げた。

「これでよいのか!」

「そのまましっかり持っていなさい!」

 そう答えるとキャスターは全速力で降下する。そしてその心臓目掛けて歪んだ短剣を突き刺した。それはキャスターの宝具"破戒すべき全ての符"だった。その力はあらゆる魔術から生まれたものを初期状態へ戻す魔術宝具。それだけではない。マスターとサーヴァントの契約を無効化する事さえ出来るのだ。
 つまり獣達へはその存在をかき消すのではなく、後者の効果を発揮する。獣達はある意味でサーヴァントなのだ。その正体は負の思念の集合体。故にそのマスターはあらゆる平行世界ともいえる。それ故に獣達は勢いを弱める事はあっても消える事はないのだから。

 キャスターはそれに賭けた。完全とはいかないまでも一時的にその繋がりを断ち切れればと。その狙いは当たった。宝具を使った直後にキャスターが薙ぎ払うように放った砲撃魔術が獣達を蹴散らしたのだが、その後一切増援が出現する事は無かったのだ。それを確かめキャスターは一人洞窟の方へ視線をやって呟いた。

―――後は頼んだわよ、坊や達……

 外の奮戦によって押し寄せる獣達の勢いと数がかなり減った事に士郎達は気付いた。そして、� �時にユスティーツァはある事を悟った。それは自分が送ったメッセージを受け取った者達がそれを叶えるべく動いてくれた事だ。故に小さく感謝するように目を閉じ士郎達へ聞こえるように告げた。

―――しばらく彼らの補充はありません。今いるだけで終わりです。勝利するために素早く片付けてください。


裁判所で却下ケースを復活させる方法

 それを聞いた瞬間、セイバー達四人がこの時を待っていたとばかりに頷いた。そして、まずはルビーが手にした剣を地面に突き立て、誇らしげに笑みを浮かべた後力強く告げた。

「我が才を見よ。万雷の喝采を聞け。座して称えるがよい……この黄金の劇場を!!」」

 その瞬間、何も無かったはずの空間に目が眩むばかりの煌びやかな光景が出現した。それこそルビーの宝具"招き蕩う黄金劇場"と呼ばれるもの。生前に建築した劇場を魔力で再現する大魔術だ。
 この中では、ルビーの能力が著しく上昇する。いや、今回はそれだけではない。元々これは彼女の願望を達成させる絶対皇帝圏。つまり、彼女が望む者もその恩恵に与る事になる。そう、セイバー達三人もだ。

 ルビーの宝具によりいつも以上の力を感じるセイバー達。だからだろうか、その顔に凛々しい笑みを浮かべ手にした聖剣を構える。残った獣達を全て片付けるために。三人はルビーの展開した宝具に怯む獣達へ鋭い視線を向けた。その瞬間、手にした聖剣が風を解放して周囲に荒れ狂う。
 それはリオも放った一撃。しかも彼女達はルビーの宝具によってその能力を向上させている。その上でその一撃を三重奏にしようというのだから恐ろしい。セイバー達は眼前に見える獣達へ手にした聖剣をまったく同時に振り下ろす。力ある言葉と共に。

「「「約束された勝利の剣っ!!」」」

 放たれたのはまさしく勝利を確約する力。圧倒的、あまりにも圧倒的な力の奔流が洞窟内部から獣達を駆逐していく。やがてそれは消えていき、洞窟内に静寂を訪れさせる。全てが終わった。そう士郎が感じた瞬間だった。突然ユスティーツァがその表情を変え、不安そうな眼差しで彼を見たのだ。

「どうかしたのか?」

「どうやら向こうも愚かではなかったようです。まだ……終わってはいません」

「主っ! 後 ろをっ!」

 どういう事だと士郎が考える暇もなくセイバーが声を上げた。それに士郎が反応し背後へ向き直る。そこには不気味な黒い孔らしきモノがあった。それは士郎の目の前で形を変えて何かを形成していく。それを見つめる事しか出来ない士郎達。異様な存在感と圧迫感。それをそのモノから感じていたために。
 その変化は意外にもあっさり終わった。そこにいたのは人影だった。そう、人影。目も鼻も口も耳もなく、黒い人のような存在。それが士郎達の前に立ち尽くしていた。その不気味な存在に士郎は息を呑んだ。見た目だけならばどこかユニークとも言えない事もない相手。だが、その存在が彼へ与えるものは緊迫感と絶望感だ。

(勝てない……こいつにはどうやっても勝てそうにない)

 本能が告げていた。終わりだと。どんなサーヴァントでも抗う事は不可能だ。それだけの何かが目の前の相手にはある。何故ならばその相手こそ"この世全ての悪"なのだ。一人の少年を悪に仕立てたものではない。概念として存在しているアンリマユそのもの。故に士郎の直感は当たっていた。悪は人がいる限り滅ぶ事はない。つまり倒 す事は出来ないのだから。

 その証拠にセイバー達さえ何か言う事も動く事も出来ずにその場にいた。特にセイバーは直感のスキルを持っている。そこから相手の本質を悟ってしまったのだろう。セイバーのクラスが揃いも揃って身動き一つ出来ずにいる事が持つ意味は重い。
 それでもセイバーが意を決して守るように士郎の前へと動いた。それに感応したようにオルタやリリィも動き出す。ルビーも士郎の前に立ち四人は聖剣を構える。だが、手にした聖剣を握る手が誰しも心なしか震えているように士郎には見えた。

「奏者よ、ここは我らに任せよ」

「ええ。シロウは撤退してください。しんがりは引き受けます」

「出来るだけ早く行け、マスター。そう長くはもたん」

「な、何言ってるんだよ。相手はたった一人だ。みんなで戦えば絶対に」

 いつになく真剣で弱気な三人の声を聞いて士郎は何とか鼓舞しようと言葉を絞り出す。しかし、その声もどこか弱い。そんな彼の言葉を聞いて遮るようにセイバーが口を開く。

「主、分かってください。こいつには我々では勝てま� �ん」

 はっきり告げたセイバーの言葉に士郎は声を失った。嘘でも否定して欲しかったのだ。自分達は勝てると。士郎が抱いた感想を打ち砕く希望をセイバーならば言ってくれるのではないか。その淡い期待は無残にも散った。
 それでも、それでも諦める訳にはいかない。士郎は出かかった返事を飲み込み、精一杯の強がりを放つ。自分がここで逃げては何もならないと知っているから。今までの時間を無かった事にしないためにも退く訳にはいかない。そう思って士郎はセイバー達へ吼えた。

「だからって諦める訳にはいかないんだっ! せっかくここまできて逃げるなんて出来ない!」

「ですがっ!」

「分かってるさ! あいつは倒せるはずがない相手なんだろ! でも俺は逃げないし逃げたくない! 最後まで戦いたいんだっ!」

 子供の駄々にも似た言い方。しかしそれでも士郎は本気だった。ここでやらなければどちらにせよ自分に先はない。ならばどうするか。答えは決まっていた。最後まで精一杯生きるためにもがき足掻く。� ��らば絶対に撤退はない。負けると分かっていても挑む。そんな気持ちが士郎から漂っていた。
 それをセイバー達も感じ取ったのだろう。その綺麗な顔が一瞬だけ呆れるようで愛おしい笑みを浮かべる。だがすぐにその表情を凛々しく変えると、剣を構える手に力を込めた。覚悟は決まった。そんな言葉が聞こえてくるかのように。

「主がそこまで言うのなら、もう私に言う事はありません」

「セイバー……」

「マスターの道を切り開く。それがワタシ達の役目だ」

「輝く未来をシロウと共に歩くために」

「オルタ……リリィ……」

「うむっ! では奏者よ、見事勝利を奏でてみせよ!」

「ルビー……ああっ!」

 弾かれるように動き出すセイバー達。それに続く形で士郎も双剣を手に走り出す。それを見てアンリマユが反応した。その手が突然裂けたかと思うと触手状になってセイバー達 を襲ったのだ。反射的に手にした刃でそれを切り払うセイバー達だったが、それは斬られた瞬間からすぐに再生し攻撃を再開する。
 結果、セイバー達はその場から動けなくなってしまう。触手を斬り、あるいはかわしてダメージを避けるセイバー達。その動きにはさほど必死さはないがアンリマユの攻撃は間断なく襲うため防戦一方だ。

 士郎もその攻撃を受けていた。だが、当然四人とは違い必死にならざるを得ないため、その表情には険しさが見える。手にした双剣で触手を切り払うも、強度的に負けているのか触手を斬り落とすと同時に砕けてしまう。その都度投影し直し士郎は足掻く。

(駄目だ! 今のままじゃいずれ魔力が尽きる! もっと精度を上げろ! 本当ならこの双剣は砕かれないはずだっ!)

 想いは力となり、その投影をより高みへと昇らせる。もっと堅く、もっと鋭く、もっともっと。砕かれる度に士郎の双剣はアーチャー� �域に近付いていく。いつしか士郎は触手を迎撃する事よりも投影の精度を上げる事でその思考を占めていた。
 当然そんな事になれば士郎の技量では触手を見事に斬り落とす事など不可能だ。投影の精度が上がる度にその体へ傷を負っていく。それでも士郎はそれを止めなかった。死ななければいい。そうとばかりに手にする双剣へ意識を傾けていく。

 何度目かの攻防で双剣が砕かれた時、士郎の顔を触手が掠った。それを辛うじて回避するも頬へ鋭い痛みが走る。その痛みに構わず士郎はただ意識を集中した。手にする双剣、干将・莫邪を本物の域にまで高めるために。

「投影、開始」

 何度言ったか分からない程の回数告げた呪文。しかし、今回は違った。次の瞬間、構造や骨子、製法から材料まで全てを忠実に再現したかのような干将・莫邪が士郎の手元に出現する。その双剣を見たセイバー達も一瞬見惚れる程の出来。� �物と遜色ない贋作がそこにあった。
 士郎はそれを振るい迫り来る触手を切り払う。今までは相打ちに終わった行動。だが、遂にその結果に変化が起きる。士郎の双剣は見事に触手を斬り落としたのだ。それだけではない。手にした双剣は少しも欠ける事なく残っていた。

 いける。そう思った士郎は眼前を睨んだ。アンリマユは少しとして動じる事も変化する事もなく未だに同じ場所にいた。再び触手が士郎へ迫る。それを切り払って士郎は気付く。触手攻撃はセイバー達へ重きを置いていて自分へは最小限しか行われていない事に。
 自分ならばアンリマユへ攻撃出来るかもしれない。そう思うも通じるかと思う気持ちもあった。しかしそんな思考もほんの一瞬。すぐに士郎は意を決して走り出した。迫る触手を最低限の動きで払い、ダメージは致命傷でなければいいとばかりに。

「あぁぁぁぁっ!!」

 体のあちこちに触手が掠る。その度に士郎を鈍い痛みが襲った。それでも止まる事無く士郎は走る。アンリマユへせめて一太刀浴びせてみせるとの一心で。その時、士郎の脳裏にある技が浮かんだ。それがどうしてかを考える事もせず、士郎はそれに全てを賭けるように口を開く。
 自分にあってセイバー達にないもの。それは相手の危機感の無さ。衛宮士郎ではアンリマユへダメージを与える事は出来ないという相手の認識だけが士郎にある唯一にして最大の勝機。そう判断したが故の行動だった。

「鶴翼、欠落ヲ不ラズ」

 そして士郎はその手にした双剣を投げ放った。それが弧を描きながらアンリマユへ向かっていく。それをあっさりとアンリマユは弾いた。だが、弾いただけ。砕けはしない。軌道を変えられた双剣をアンリマユはわざわざ撃ち落とすまでもないと無視をした。それが士郎にとっては狙い通りの展開と知らずに。

「心技、泰山ニ至リ」

 それを見届ける間もなく再度双剣を投影し士郎はアンリマユへ迫る。それを迎え撃とうとしたアンリマユへ、いつの間にか先程弾かれた� ��剣が背後から襲いかかった。干将・莫邪は互いを引き付け合う性質を持っている。つまり士郎が手にしているもう一つの干将・莫邪へ引き寄せられているのだ。前方と後方。挟撃の形となった事でアンリマユがほんの微かに動きを鈍らせる。
 その瞬間、士郎の目が鋭さを増す。ここだ。士郎ではない士郎が声を上げる。それが絶対無二の勝機を逃すなと叫んでいた。その声に後押しされるように士郎は手にした双剣を渾身の力で振り下ろす。

「心技黄河ヲ渡ル!」

 背後の双剣と示し合わせるかのような連撃がアンリマユへ叩き込まれていく。だが危機的状況なのは士郎の方だ。少しでも攻撃が緩めば即座に死ぬしかないのだから。その中で士郎は一心不乱に双剣を動かした。そのダメージでアンリマユが微かに怯むと同時に双剣が砕け散る。しかし、士郎はすかさず双剣を投影し残る全ての力を込めるように勢いよく振り抜いた。

「唯名別天ニ納メ! 両雄、共ニ命ヲ別ツっ!」

 これぞ鶴翼三連と呼ばれる技。今の士郎には本来出来ないはずの連撃。� ��が、その投影した双剣から彼は無意識に読み取ったのだ。それを使って生涯を戦い抜いた男の技を。その動きを。綺麗に決まった奥義にアンリマユが若干たじろく。
 だが、そこまで。士郎の体は限界を迎えていた。英霊となった男が鍛錬の末に編み出した技を、生身の、しかもその域にまで届いてもいない者が使えばそうもなる。もう攻撃を放つ事も出来ず、ただその場に膝をつくのみ。


 そしてアンリマユはすぐに立ち直ると無防備な士郎へその触手を繰り出した。避けなければと思う士郎だが、無理をした代償にその体は一ミリも動かない。ゆっくりと迫るような触手。士郎の脳裏に死という単語がよぎる。それは、最早抗う事の出来ない決定事項だった。

―――させませんっ!

 しかし、その死の因果を断ち切る剣がそこにいた。青き騎士が手にした聖剣で触手を切り払ったのだ。士郎が作り出した僅かな隙。それはセイバー達には十分過ぎる程の時間だった。あれによって触手攻撃が途切れ、セイバー達は士郎を助けるべく動けたのだから。

「マスター、よくやった。後はワタシ達の出番だ」

「シロウの作り出した好機、無駄にしませんっ!」

� �中々見事な舞であったぞ、奏者よ。余も負けてはおれぬ!」

 アンリマユへ迫り手にした剣を振るう三人。その背をどこか呆然と見つめる士郎へセイバーが告げた。

「主、感謝します。貴方のおかげで私達も希望を捨てずに戦う事が出来る」

 セイバーはそうはっきり告げるとアンリマユへと駆け出した。オルタ達三人は既にアンリマユの懐に入ったためか相手を若干押しているようにも見える。それが自分の作り出した光景と思い出し、士郎は痛む体にもう少しだけ動けと念じながら手を懐へ入れた。
 もう自分に残された魔力はないに等しい。だからと言って後を全てセイバー達に任せる事もしたくない。失ってしまった魔力。それを回復させるための手段。それが今の士郎には一つだけあったのだ。

(遠坂、お前がくれたこれ……使わせてもらうな)

 そこから取り出したのは大きめの赤い宝石。時臣が用意し凛が聖杯戦争の切り札にと考えていた物だ。凛が士郎へ出発前に託してくれた奥の手。魔力が無くなった時に使えば士郎程度ならば十人以上完全回復させる事が出来ると言われたのだ。
 獣達を一斉に排除した時に宝具を使ったため、セイバー達も再度宝具を使う事は厳しいはず。そう思い士郎は自分がその役目を担う事にしたのだ。即ち宝具を投影する事。セイバーの真名はもう士郎も気付いている。故に作り出せるのだ。星が鍛えし聖剣ではない。彼女が王となるキッカケの剣。今の自分達を言い表すに一番相応しい宝具を。だがそこで士郎は一つの問題点に気付いた。

(あれ? でも、これってどうやって使えばいいんだ?)

 凛からは大聖杯へ行けば分かると言われただけなのだ。すると、そんな士郎の隣へユスティーツァが静かに歩み寄る。彼女は士郎の手にした宝石を見つめ柔らかく微笑んだ。

「これは……中々凄い物を持っているのですね」

「え? まぁ、遠坂の奴が切り札にって考え� ��た物だから」

「なるほど。それで、これを何に使いたいのですか?」

 その時、士郎は凛の言った言葉の意味を理解した。ユスティーツァに宝石を使ってもらえと、そう意味だったのだと。何せ相手はこの大聖杯を完成させた魔術師。宝石を使った魔術も知らないはずはない。士郎はそう思ってユスティーツァへ望みを託すように告げる。自分の魔力を回復させて欲しいと。
 その願いにユスティーツァは頷いて宝石へとその手を重ねた。そして何か呟くと宝石が輝き出し、士郎の体を包んだ。その不思議な輝きは士郎の体を癒すように傷を消していく。輝きが消えた後には大聖杯に来た当初の状態に士郎の体は戻っていた。

「これでいいですか?」

「す、凄い。体が完全に治ってる」

「あれだけの魔力があれば造作もない事です。後は貴方達にお任せします」

 ユスティーツァの言葉に士郎は小さく頷くとその神経を投影に集中させる。思い浮かべるのは黄金の剣。選定の剣と言われた騎士王が最初に手にした一振り。今までにない程の難敵だが、士郎は焦る事なく投影に全てを注げた。アンリマユをセイバー達が完全に押さえてくれる。その信頼感があればこそだ。
 ゆっくりと慎重に一つの手抜かりもないよう投影を仕上げていく士郎。それはさながら鍛冶屋が心血を注いで自慢の一振りを鍛え上げるかの如き様。己の全魔力を使い切る気持ちで士郎はその手に一本の剣を作り出していく。

「…………出来た」

 そこにあったのは見る者を魅了するような美しい剣。聖剣のような神々しさこそないがそれとは違う輝きがある。士郎はそれに満足するとすぐさま視線を動かした。これを使いこなせるのは自分ではないからだ。

「セイバーっ!」

 故に呼ぶ。その剣の担い手を。自分が作り出した黄金の剣の力を引き出してくれる存在を。その士郎の呼び声にセイバーが振り返り、その手にある物を見て表情を驚愕に変える。そこにあったのは彼女が失いし物。もう二度と見る事はな� ��と思っていた剣だったのだから。

「そ、それは……何故主がそれを!?」

「説明は後だ! 今はあいつを倒す事だけ考えろ!」

「っ! そういう事ですか!」

 アンリマユの攻撃を避け、距離を取るセイバー。そして士郎の隣へ来ると聖剣をしまい、彼の手へ自身の手を重ねた。と、そこへアンリマユが今までにない程の攻撃を放つ。無数に分裂した触手が全て士郎とセイバーへ襲いかかったのだ。しかし、それを見ても二人は身じろき一つしない。凛々しく眼前を見つめるのみ。その理由はたった一つ。

「花散る天幕っ!」

「風よ、薙ぎ払えっ!」

「そこだっ!」

 ルビーの剣が触手を一刀の下に斬り伏せ、そこへリリィの聖剣が風を起こして薙ぎ払う。最後にオルタの聖剣が巨大化し、アンリ マユを叩き上げる。三人の攻撃が士郎とセイバーを守り、また助けた。そう、二人が欠片として恐怖を抱かなかったのはそれを信じていたから。ここにいるのは自分達だけではないと知っているから。二人はアンリマユの攻撃に微塵も動じる事がなかったのだ。
 オルタの攻撃で宙へ舞い上がるアンリマユ。それへ視線を合わせ、士郎とセイバーは手にした剣を振り上げる。そして落下を始めるアンリマユへ届けとばかりにそれを振り下ろした。

―――勝利すべき黄金の剣っ!!

 放たれた光はアンリマユを飲み込んでいく。深い闇をかき消すようなそれは洞窟全体を包み、士郎達の視界をも奪った。更に光はそれだけに留まらず、洞窟から外へ抜けて夜の闇を切り裂いていった。その輝きを全ての者達が見つめる中、静かに長い戦いは終わりを迎えようとしていた……

 夜が明け、太陽の日差しが街を照らす。いつもと変わらぬ光景。何も変わらず時間。ゆっくりと街が目を覚まし、人々が動き出す。今日も一日が始まる。そんな事を誰ともなく感じながら。しかし、ある場所だ� �はそうではなかった。
 深山町にある一軒の武家屋敷。衛宮邸では誰一人として眠っていなかった。士郎達が帰ってくるのを今か今かと待ちわびていたのだ。他の場所で戦っていた凛やリオなども戻ってきていて、普段以上の人数が衛宮邸に集結していた。

「……遅いわね」

 もう何度目になるか分からない呟きを凛が放つ。隣で座る桜がそれに小さく頷いた。時臣は葵を連れて自宅へ戻り、アーチャーとイスカンダルもそれについて行った。ライダーは桜と共に衛宮邸へ戻り、慎二とフランもそれに同行し今もここにいる。
 慎二としても心配だったのだろう。何せ自分の数少ない同性の友人なのだ。その安否は気がかりなのだろう。フランはそんな慎二に付き添い、今も隣り合っている。その様はどう見ても恋人そのものだったが。

 心配そうな凛と桜を見て、居間からそれを見ていたイリヤがお茶を飲みながら告げる。

「心配いらないわよ。こうして私達がいる事。それが勝つ事が出来た何よりの証拠でしょ」

「……最悪相打ちって事もあるわ。とにかく、今は士郎達が一刻も」

 イリヤの楽観的な言葉に凛はやや不安げな言葉を返す。だがその途中で言葉が途切れる。それにイリヤが何事かと思って視線を動かした。見れば凛と桜が走り出している。それが何を意味するかを瞬時に悟り、イリヤも負けじと動き出した。
 それに居間の切嗣達は揃って苦笑しつつ、楓達へその事を伝える。すると三人も弾かれるようにその場から駆け出した。ライダーは一人そんな光景眺め微笑む。そしてゆっくりと玄関へと向かった。きっとそこにある者達の姿があると確信して。

 玄関を通るとそこには小さな人だかりが出来ていた。それが自分の抱いた予想を正しかったと肯定し、ライダーは小さく笑みを浮かべながらその傍へと近付いていく。そこから聞こえる声にその笑みを強めながら。

「その、すまない。セイバー達も疲れてたから遅くなった」

「だからって連絡ぐらいしなさいよ! どれだけ心配したと思ってんの!」

「ちょっと、お兄ちゃんは疲れてるんだから。リンのお小言は後にして!」

「クスッ……先輩、怪我してないです か? 二人共まずはその手を放してあげてください」

 困り果てる士郎を見てイリヤがそう言って凛から引き離そうとする。それに凛もムキになったのか意地でも離すまいと士郎の腕を掴んだ。桜はそんな二人を見て微かに苦笑した後、士郎を助けるように割って入る。
 それを眺めてセイバー達が笑う。いつもの日常がそこにはあった。と、そこでルビーが何か思い出したのかそっとその場から離れる。それに士郎だけが気付いて見つめていた。するとルビーは素早く戻り、その手に何かを持っていた。

 士郎にはそれに見覚えがあった。あのルビーとの二人っきりの時間。そこでルビーが書いた二枚の絵。その内の見せてもらえなかった方の絵だと。士郎の視線に気付いて誰もが視線を動かした。ルビーは自身へ注がれる視線に誇らしげに胸を張ると、手にした絵を裏返しのままで掲げた。

「さて、無事に勝利したこの時こそ、余が描いたこれを披露するに相応しい。皆の者とくと見よ。これが余の最高傑作だ!」

 士郎達の視線が注がれる中、ルビーはそう言って絵を表向きにする。� �の瞬間誰もが思わず感嘆の声を上げた。そこには笑顔の士郎達が描かれていたのだ。セイバーが、オルタが、リリィが、凛が、桜が、イリヤが、楓が、鐘が、由紀香が、ライダーが。
 それだけではない。切嗣やアイリ、大河達まで描かれている。今、この衛宮邸にいる者達が全てそこには描かれていた。絵画と言うよりも写真に近いそれに誰もが魅入る。そこで士郎は思い出した。あの時、ルビーが自分へ言った事を。その気になればその場にいない者達も描く事が出来るとの言葉。それはこの絵の内容を暗に告げていたのだと。

「…………そっか。だからあの時あんな事を言ったのか」

 その士郎の呟きが聞こえたのか、ルビーは自慢げに笑みを見せた。それが実にらしく思え、士郎も笑みを返す。こうして士郎達の長かった戦いは終わった。失われるはずだった未来は消え、新しい未来が始まる。幾多の平行世界から切り離されたまったく新しい世界が……

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これにて完全終了。長い間放置していてすみませんでした。中々最後の展開が思いつかず、ここまで長引かせてしまいました。

今にして思えば一発ネタで終わらせておくべきだったと反省していますが後悔はしません。これを楽しんでくれた方、読んでくれた方、ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございました。



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