2012年4月7日土曜日

【刈部謙一コラム】Jのクラブも手本にするブンデスリーガ - FOOTBALL WEEKLY - ライブドアブログ


東京オリンピックの時のデットマール・クラマーさんから始まり(彼を呼んでくる背景を考えればそれ以前からですが)、Jリーグ創設当時の川淵チェアマンの理想のサッカー育成環境はドイツのスポーツシューレでした。Jのクラブでもブンデスリーガのクラブの有り様を手本にしているところもあります。日本人初めてのプロ選手が誕生したのもドイツでした。

そんな国のリーグですから、現在日本人が多数参加していても不思議はないようです。ですが、いつもうらやましく思うのは観客動員とその熱さです。熱狂的ですが、プレミアともリーガとも違うものがあります。セリエとは少々似た感じがありますが、観客動員が違います。それは何だろうと思います。

そんな時に一冊の本のこ とを思い出しました。ギュンター・グラスの『私の一世紀』(早稲田大学出版部2001年、06年に新装版が出ていて現在も購買可能)です。グラスは映画にもなった『ブリキの太鼓』の作者で、1999年のノーベル文学賞を受賞した現代ドイツ文学を代表する人。生まれは、現在はポーランドであるグダニスク。当時はダンツィヒ自由市と呼ばれ、ドイツでもポーランドでもなかった町。そこでドイツ人の父親、スラブ系の少数民族の母親の家庭に育ったのです。17歳の時に、ナチスドイツの武装親衛隊に入隊したことを06年に告白し、大きな話題を呼びました。


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10年ほど前に、「20世紀」の資料として買っていたもので、きちんと読んでいなかったのですが、ドイツの熱狂を知るのに、手がかりはないと久しぶりに手に取ったのです。本は1900年から1999年までの100年を一年ごとに、ショートストーリーで語るというものです。その年に起こったエポックな出来事をグラスが作ったそれぞれの主人公に語らせるというもので、「事実」が見事に立ち上ってきます。案の定ありました。その中の3話はサッカーが主人公だったのです。60年のローマオリンピックを背景としたアディダスとプーマの兄弟の争いを入れると4話になりますが、これは主役がサッカーではないので、カウントしない方が良いかも知れませんが、いいところに� ��を付けています。

最初は1903年のドイツ選手権決勝戦の話です。ハンブルク・アルトナで開催され、VFBライプチィヒとDFCプラハが戦い、7対2でライプチィヒが勝ちました。ここで、グラスは当時のドイツ帝国の広さを、現在は独立国チェコの首都のクラブとドイツのクラブがドイツ選手権を争うことで表現したわけです。サッカーの持つ意味が全く違って見えます。さらに面白いのは、勝利をもたらしたFWはポーランド出身の帰化したドイツ人で、その後に続く流れの最初だったというものです。本人の出自もそうですが、現在のドイツ代表のルーツもあります。


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次は54年にとびます。ドイツが西ドイツとして国際競技大会=ワールドカップに復活した時の話です。もちろん、スイスのベルンで行われた、マジックマジャールといわれたハンガリーとの決勝の話から始まりますが、主人公はドイツの主将で、後にカイザースラウテルンのスタジアム名になったフリッツ・ヴァルターとハンガリー人の主将フェレンツ・プシュカーシュです。ストーリーは彼の幻の同点ゴールと彼らのその後の話で、二人とドイツ、ハンガリーのその後までが重なっています。戦後のドイツとハンガリーの変遷を二人とその試合が象徴しているという見事な構成です。立ち読みでもいいから読んで下さい。

最後は74年のワール� ��カップ予選で西ドイツが東ドイツと戦った日の話です。当時、東西ドイツの融和政策を進めていた西ドイツのブラント首相の顧問であったギュンター・ギヨームが東ドイツのスパイであることが判明した最中でもあり、収監された彼の目から見た東西ドイツの戦いです。分断された国家の有り様を「悲劇」などと言う簡単な言葉で表さない、作家の表現力が十二分に発揮された短編です。オベラートやベッケンバウアーも登場してきますので、親近感は格段にあがります。


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ということなのですが、日本で言えば同じくノーベル賞作家の大江健三郎が「百年」を語るというようなものです。ただし、大江健三郎が同じように素材を扱えるか、はたまたサッカーまで登場させることができるのかは疑問です。大江さんには『万延元年のフットボール』という著書があります。中には「蹴る」という表現があり、サッカーのようですが、練習風景や身体を鍛えるために作られたチームへの期待度を考えると、サッカーというよりは、ラグビーやアメラグのようです。これまでの日本のサッカーが日本社会の歴史にどれだけシンクロもしくは深く関わったかははなはだ疑問ですので、こうした「本」を大江さんに望むことは無理かもし れませんね。


簡単な結論でしょうもないですが、サッカーの歴史・文化の差です。ドイツはだてにスタジアムが一杯ではないのです。そう考えると日本の代表以外の日常的な試合でスタジアムが一杯になる日は来るのでしょうか。いささか心配ですが、2099年に誰がこの本の「本歌取り」をして日本のサッカーを描いてくれることを祈って終わりにします。その時はきっとスタジアムは常に満員なのでしょうから。
 
【刈部謙一】
 
■なお、今週から日本人選手の動向はTwitterでご覧ください。
先日来より、「欧州の日本人選手の動向」に鄭大世(チョン・テセ)選手も載せるようにしました。これは人伝ではありますが、本人にもっと日本のメディアに自分の活躍を載せて欲しいという要望があると聞いたからです。日本で活躍していましたし、なにより日本育ちですから、名称はともかく彼の動向を載せることに問題などないと思っていますので今後もよろしくお願いします。

[photo:REUTERS/Wolfgang Rattay]



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