獣達の勢いが弱くなってきたのを感じ取り、アーチャーとイスカンダルは勝負を決めるならば今しかないと直感的に悟った。故に行動は早かった。アーチャーが詠唱を始めると同時にイスカンダルは己が宝具を展開し、この戦場を戦い易いものへ変えようとする。
それだけではない。彼が使おうとしている宝具は獣達を隔離出来るのだ。それは少々余力が少なくなってきた凛と時臣を休ませるための時間を得るためでもある。僅かでも体力を回復出来る時間を作るべく、イスカンダルは不敵な表情を浮かべた。「さて、そろそろ狭い場所での戦は飽きた。皆の者、広い野を駆けるとしようではないかっ!」
その言葉がキッカケのように周囲の景色が変わっていく。全てが何かに塗りつぶされるように。それは固有結界と呼ばれる大魔術。魔法にもっとも近いと言われるものだった。それにより鉄橋は消え、周囲には見渡す限りの平原が広がるのみ。いや、それだけではない。そこには大勢の兵士達がいたのだ。
彼らは全てイスカンダルと共に時代を駆け抜けた臣下達。一人一人が英霊級という凄まじい者達だ。それこそイスカンダルの宝具の一つ"王の軍勢"だ。本来魔術師でもない彼に固有結界は使えない。しかし、彼だけでなく全ての者達が同じ光景を心に焼き付けたが故に生まれた宝具がこれだった。
そう、これぞ征服王と呼ばれたイスカンダルに許された絆の力。力による蹂躙ではなく相手の心までもその強烈なカリスマ性で征服した彼に相応しい光景。従わせるのではなく従える。その強烈な在り様で人の心を魅了するからこそ彼はこう呼ばれたのだ。征服王、と。
「あの戦いで知っていたが味方として見るとまた印象が違うものだな」
時臣は眼前に広がる光景に思わず感慨深げな声を漏らす。あの第四次聖杯戦� �で知ったイスカンダルの宝具である王の軍勢。その時は敵だったために厄介としか思えなかったが、今はそれが自分を守る力となっている。その頼もしさに彼の失いかけていた余裕が再び戻り始めた。
大勢の兵士を背にするイスカンダルの威容にさしもの獣達も後ずさる。すると、それを合図にしたようにアーチャーが詠唱を終えその力を解き放った。それを受けまた平原が姿を変えていく。何も無かったはずの広大な大地には、幾多もの聖剣や魔剣などの武器が突き刺さっていたのだ。
それがアーチャーの宝具"無限の剣製"。これもイスカンダルの宝具と同じ固有結界。しかし、これは本来ならば戦況を一変させる程の力は持たないもの。だが、今回に限れば恐ろしい程の効果を発揮する。それに真っ先に気付いたのは彼のマスターだ。
「成程ね。しかしアーチャーのくせに宝具が固有結界とはやってくれるじゃないの」
この荒野に突き刺さる武器はどれもが宝具と扱われてもおかしくない物ばかり。確かに投影によって作られた贋作だろうが、それでもその出来映えは凛の目から見れば遜色ないように思えたのだ。そう感じて凛は呆れるようにため息を吐いてアーチャーを見た。
するとその視線が見事に彼とかち合う。一瞬面食らう二人だが、それもすぐに立て直し互いに不敵な笑みを浮かべるのは大したものだろう。アーチャーは凛が自身の狙いを察したと理解し、凛もまたアーチャーがそれを察した事を理解したのだ。
アーチャーは凛の理解力の高さに内心微笑みながら、表情は不敵な笑みのままイスカンダルへと視線を向ける。イスカンダルとその臣下達は突然の事に驚いてはいた。だが、誰もが興味津々と言った感じで周囲を見渡していた。その豪胆ぶりが実にらしく思え、アーチャーは自身の予想が間違っていなかったと実感する。
「どうだろう征服王、気に入ってもらえたかな? ただ駆けるだけではつまらないと思ったので用意した。まぁ贋作ではあるが出来は保障するので君の周囲の 者達へこの武器達を使ってもらえないだろうか」
そう、彼の宝具は刀剣の類に限り真作に迫る程の贋作を展開している。それを一騎当千の英雄と同等であるイスカンダルの臣下達が使えばその結果はいうまでもない。それに気付いてイスカンダルは興味深そうに笑みを浮かべた。
「ふむ、これは……中々面白い趣向だな。アーチャー、やはりお主も余と共に」
「その誘いは遠慮すると言ったはずだ。それよりも今は」
イスカンダルの言葉を遮り、アーチャーはそうどこか楽しそうに返す。それにイスカンダルは苦笑すると一度だけ頷いた。凛と時臣は既に二人の横にいた。宝具使用による魔力を供給しやや苦しそうではあるものの、その表情は凛々しいままに。
それにアーチャーとイスカンダルは微かに笑みを浮かべる。二人の態度から休む気はないという無言の返事を聞いたのだろう。どこかでそうでなくてはと思い、ならばとイスカンダルは周囲へ告げた。
―――それでこそ我がマスターとその娘よ。では遅れずについて参れ。皆の者、我に続けぇぇぇぇ!!
イスカンダルの雄叫びと共にそれに呼応して走り出すアーチャー達と大勢の兵士達。世界征服を望み大地を駆け抜けた征服王。その雄姿が甦った瞬間だった。その雄叫びを聞いたのか、それと時を同じくして桜達も勝負に出る事にした。
揃って悟ったのだ。ここで動かねばいけないと。なので、まずはフランが動いた。未だに散開する獣達を一気に殲滅するには自分の宝具が向いていると思ったのだ。それとこの状況に飽きてきたのもその裏側にはある。
「さて、精々派手に行くさね!」
その宣言と共に出現する一隻の船。それは彼女と共に海原を駆けた黄金の鹿号だ。更にその周囲に無数の小船が出現する。それこそ彼女の宝具"黄金鹿と嵐の夜"だ。その圧倒的火力が獣達を攻撃していく。かの無敵艦隊を打ち破った力が数を頼みにする獣達を沈めるべく放たれた。
混乱する獣達は分散していてはその砲撃を止める事は出来ないと判断し態勢を整えようと動き出す。唯一砲撃の甘い場所である学園の入り口である門へと一斉に退却を開始したのだ。黒い波がうねるように殺到する様をフランは不敵な笑みで見つめていた。
フランの攻撃から逃れようとする獣達。その退路として選んだ道は実は既に断たれていた。そう、その上空にはペガサスに乗ったライダーがいたのだから。意図的に学園の前にある坂への道を開けているとフランの意図に気付いたライダーはそこに逃げてくる獣達を待ち伏せていたのだ。
ライダーは眼下に広がる光景に呆れたような息を吐くと、慈しむように軽くペガサスの頭をなでる。最初こそ自分達の奥の手を封じるような行動を取った獣達も、やはり本質は本能しかない獣だったかと思ったのだ。
「さて、私達も行きましょうか」
争いを好まないペガサスを少し申し訳なさそうに撫でながら静かに告げた声と同時にその姿が白い彗星へ変わる。ライダーの宝具"騎英の手綱"だ。その力を以ってライダーは坂を駆け下りていく。フランはそれに軽く笑みを浮かべると小さく文句を告げる。自分の取り分が無くなると。
そのため、黄金の鹿号に桜と慎二を乗せてライダーの後を追う。かつて日の沈まぬ国と呼ばれたスペインの権威を失墜させた船団が行く。白い彗星となったペガサスを援護するように。海を駆けるフランと空を駆けるライダー。二人の騎乗兵は地を這う獣達を追い詰めるように攻め立てる。
まるで今までの鬱憤を晴らすかのような攻撃。その苛烈さは確実に獣達を襲い、あるいは撃ち抜いてその数を減らしていく。その圧倒的な光景を眺めて桜と慎二は苦笑していた。最初からこうすれば良かったと告げる慎二に、桜が今だからこそ使ったはずと返す。その視線を動かし、冬木の街を襲う獣達の数が減ったように感じながら二人は頷き合う。
「これで終わりが見えてきましたね」
「だな。ま、僕が手を出したらこうな� �って最初から分かってたけどさ」
未だ獣達が完全に消え去った訳ではない。それでも桜も慎二も勝利を確信していた。信頼する二人のサーヴァントが奥の手と言える宝具を使った以上その敗北はないと信じているからだ。そう思って二人は視線をある一点へ向けた。
その先には無人の校舎がある。また平穏を取り戻しここへやってくる日を掴むためにも最後まで気を抜かないでおこう。そう考えた二人はそれぞれのサーヴァントを見つめて同じ言葉を呟いた。それは激しい戦いの最中では小さな声だったかもしれない。しかし込められた気持ちは強く大きなものだ。
「ライダー、頑張ってっ!」
「容赦するなよ、フランっ!」
「ライダー、片付けるよっ!」
「言われずとも分かっていますよ」
そんな兄妹の声を聞いたフランは不敵な笑みを浮かべたままでライダーへ合図を出す。それは最後の総仕上げを告げるもの。その言葉にライダーも笑顔で返すとフランも満足そうに動き出す。その凄まじさは獣達からすればまさしく恐怖そのものだった。
そんな二人の騎乗兵による獣達の駆逐が始まった頃、以前として衛宮邸の門前でイリヤ達は戦っていた。だが、既にそれも限界を迎え始めていた。弾丸が無くなったために舞弥が戦力としての役割を果たせなくなったのだ。それでも舞弥は気丈に通常の弾丸しか装填していないハンドガンで牽制を続けていた。イリヤと自分を守るように戦うバーサーカーのために。
「マイヤ、もういいよ。バーサーカーが下がれって言ってる」
「でしょうね。でも、駄目。獣達がかなり勢いを無くしてるここで押し返さないと」
状況を冷静に判断した舞弥は手にしたハンドガンのマガジンを取り換えた。そちらの残弾も残りが心許なくなってきてはいるが、ここで自分が撤退すればイリヤへ危険が及ぶ可能性が高くなる。それを懸念� �舞弥は戦意を高めていた。通常の弾丸でも効果が完全にない訳ではない。それだけを支えに舞弥は銃を構える。
その舞弥の言葉からイリヤは戦局を決する時が来たのだと察した。そしてここで自分達が好機をものにすれば、父親と母親を援護するだけではなく助ける事に繋がるかもしれないと考えて。それが表情を凛々しくする。そして彼女は視線をある相手へ動かした。
「やっちゃえ! バーサーカーっ!」
バーサーカーはその声に小さく頷き、手にした斧剣を構える。白い少女の声援を受けた英雄は古の神話で謳われた風格を漂わせた。幾多の試練を乗り越えた勇者であるヘラクレス。その伝説が今甦る時が近付いた瞬間だった。
それを感じ取った舞弥が息を呑み、獣達が怯む。彼らは目の前の相手が切り札を切ろうとしている事を感じ取ったのだ。そう、バーサーカーは狂戦士。だが、今の彼は完全に狂っている訳ではない。故に放てるのだ。彼がセイバーやアーチャーのクラスで召喚された際の攻撃―――宝具とも呼べる攻撃が。ヒュドラを倒した際の伝承通りの技が。
「受けてみろ。我が必殺の一撃を」
「えっ……?」
「バーサーカーが喋った?」
疑問符を浮かべる二人の目の前で放たれたのは"射殺す百頭"と呼ばれる技。地鳴りを思わせるような雄叫びと共に振るわれる斧剣。それが見事な剣舞のように門前に居た全ての獣達を一瞬で全滅させた。
その光景に思わず息を呑む舞弥。イリヤはその技に感嘆の声を上げ、満足そうに笑って頷いた。先程バーサーカーが喋った事を忘れているかのように。そんなイリヤの笑顔に応えるようにバーサーカーがもう一度雄叫びを上げる。
個人的には性能に直接関係ないにもかかわらず交換時の満足感は高く、造形美を含め要チェックなパーツと言ったところですかね(笑
いずれにせよ、破損も無く交換できた用で何よりです。
ちなみに私は現在静音で名高い忍者を使用中です。